美容外科の臨床研究においては、その研究成果を公表し社会へ還元するという、公的な利益への貢献が期待されるが、同時に、その成果の公表者(以下、「公表者」という)が当該公表に関し商業的または政治的な利益等の私的な利益を有している場合がある。私的な利益が存在すると、それによって公的な利益が不当に影響を受けるおそれがあるが、そのような状態を利益相反状態という。臨床研究の結果の公表は、純粋に学術的な判断に基づいて行われるべきであるが、利益相反状態が存在する場合、客観的に正当とは言えない考察や結論が研究内容として公表されることが起こり得る。また、正当な内容の公表であっても、その公表者が当該公表に関し私的な利益を有している場合、公正な評価を受けないことも考えられる。このような不適切な事態を避け、学会活動を健全に保つための対策が必要である。
そこで日本美容外科学会(JSAPS)(以下、「本学会」という)は、本学会の学術集会または機関誌等において研究の成果を公表する際に利益相反状態が存在する場合、当該利益相反状態を公開することにより本学会学術集会または機関誌等の独立性と公正性を守るため、利益相反状態開示に関する指針(以下、「本指針」という)を作成する。
利益相反状態はそれが現実のもの、潜在的なもの、或いは外観上のもののいずれであっても、本学会の名誉および信用を傷つける可能性がある。よって、本学会は利益相反状態が現実に存在する場合および利益相反があると思われる場合のどちらにも対処しなくてはならない。本学会が教育、患者の安全、美容手術や治療の進歩に貢献するという使命を果たすためには、研究の資金提供者となる個人または団体との適切な関係を保つことが非常に重要であるが、臨床研究の結果の公表に際しその内容が資金提供者の意図に影響されてはならない。したがって、臨床研究の計画と実施に決定権を持つ研究責任者は、1.研究を依頼する企業または団体の役員、理事、顧問(無償の学術的な顧問は除く)となることを回避し、2.研究を依頼する企業の株を保有することを回避し、3.資金提供を受けた研究の結果から得られる製品または技術の特許権を獲得することによって私的な利益の生じることを回避すべきである。本学会の知的独立性を不適切な外的影響から守るため、本学会会員は臨床研究およびその公表を公的利益のみを追求して行うよう求める。
以下の者に本指針は適用される。
本指針は本学会が関わるすべての活動について適用する。本学会の学術集会または機関誌等で発表を行う研究者は本指針を遵守しなければならない。また、本学会会員に対して教育的講演を行う場合または市民に対して公開講座等を行う場合にも、その演者には本指針の遵守を求める。
開示すべき内容は、研究成果の公表に関し公表者が商業的または政治的な利益等の私的な利益を有している場合、当該私的利益の原因となる個人または団体との関係(以下「私的利益関係」という)である。私的利益関係を公表者が直接有する場合のみならず間接的に有する場合も含む。私的利益関係を間接的に有する場合とは、大学における寄付講座や、公表者が所属する大学または病院が政府から補助金を受けている場合など、公表者が所属する組織が私的利益関係を有する場合を言う。具体的な契約内容によっては利益相反に当らない場合も考えられるが、その判断は利益相反委員会が公表者の開示した内容を調査した上で行う。なお、国内において未承認の医薬品や医療機器、医療材料に関しては、講演や論文における研究成果の公表が、当該未承認医薬品や医療機器、医療材料の広告宣伝となる場合も考えられる。これについては当該医薬品や医療機器、医療材料が未承認であることを研究内容の公表と同時に開示しなければならない。また、これら医薬品、医療機器、医療材料の治験を行っている場合も、その旨を開示しなければならない。公表者、または公表者が所属する大学または病院が企業から未承認医薬品、医療機器、医療材料の提供を受けている場合についても、これを開示しなければならない。
現在及び過去1年間における私的利益関係の全てを開示しなければならない。株式等の所有に関しては、決定権を持つ立場ではなく株式等保有のみの立場であっても開示が必要である。提携について開示する際は、その団体との正確な関係を完全に記載しなければならない。所有についての開示および金銭授受についての開示は、所有の形態および報酬の名目を明らかにしなければならない。利益相反委員会は、開示が不完全であると判断した場合更なる説明を求めることができる。
公表者は、自己についての開示事項(1)~(9)の事項、並びに生計を一にする配偶者、一親等以内の親族または収入・財産を共有する者についての開示事項(1)~(3)および(9)の事項を、別に細則で定めるところに従い、本学会に申告して開示する義務を負う。
本学会の独立性・客観性・信頼性を維持し、利益相反状態の審査等をするため下記のメンバーにより構成される利益相反委員会を置く。なお、同委員会のメンバーは利益相反状態を有しない者であることを要する。
記
利益相反委員会の職務
利益相反委員会は下記項目をその職務とする。
本指針に違反し、利益相反状態の適切な開示がなされなかった場合または開示された利益相反状態が虚偽であったことが判明した場合、さらに利益相反状態が適切に開示された場合であっても、臨床研究結果の公表の内容が明らかに資金提供者の意図に影響されたと判断された場合には、利益相反委員会にて審議し、同委員会は審議の結果を本学会の理事会に上申する。理事会は、利益相反委員会の上申に基づき、指針違反者に対して改善の勧告を行う。もしくは、理事会は事前の勧告なしに一定期間次の措置を取ることができる。
記
被措置者は、前項の規定に基づいてなされた措置について、本学会に対し、不服申立を行うことができる。本学会がこれを受理したときは、利益相反委員会において再審理を行い、理事会の協議を経て、その結果を被措置者に通知する。
本学会の関与する場で発表された研究において本指針に重大な違反があることが判明した場合、本学会は、利益相反委員会および理事会の議決を経て、本指針違反の事実を公表する。
本学会は、本指針を実際に運用するために必要な細則を制定する。
本指針は2012年2月1日より施行される。