乳房増大術(豊胸術)|美容外科の手術|一般社団法人 日本美容外科学会 JSAPS

美容外科の手術Aesthetic Plastic Surgery

乳房増大術(豊胸術)Aesthetic Surgery of the Nose

プロテーゼ法と注入法Implantation and prosthesis method

乳房増大術には2つの方法があります。ひとつはシリコンプロテーゼを用いた「プロテーゼ法」で、もうひとつは「注入法」です。現在実用化されているのは「プロテーゼ法」なので、ここではこの方法について解説していきます。このプロテーゼ法は、世界中で数10万人が受ける人気の美容外科です。「注入法」は今後さらに研究開発が必要な手法なので、本項の最後に参考意見を述べておきます。

どんな方がこの手術を受けるのかFor what people

もしもあなたの乳房が、あなたの期待よりも小さい時、あるいは左右が非対称である時にこの手術が適用されます。さらにこの手術で、妊娠や授乳によって縮小した乳房に張りを持たせることができます。ただし本当に下垂した乳房に対しては、バストのリフトアップと増大術を組み合わせた手術が必要になります。

プロテーゼ法による乳房増大術の基本Basics of breast augmentation procedure with a prosthetic method

この手術はあなたご自身のボディイメージと関係しているので、あなたの望む大きさに乳房を増大することが大切だとされています。たとえどなたかの希望に副う大きさになさったとしても、あなた自身の希望が叶えられたことにはなりません。乳房自体は身体の中にあって、比較的大きな組織なので、埋入されることになる乳房用のシリコンプロテーゼは鼻などに入れるプロテーゼとは異なり、それなりの大きさを持っています。このシリコンプロテーゼを目立たない部位から乳房に埋め込むのが、プロテーゼ法による乳房増大術です。

乳房増大術で用いられるプロテーゼとはWhat is a prosthesis to be used in the breast augmentation procedure?

この手術で用いられるプロテーゼは、乳房のような形状で80ccから400cc位の各種の大きさのものが用意されています。このプロテーゼはシリコンの袋で出来ていて、この中に充填される物質により、生理食塩水バッグ、あるいはシリコンジェルバッグといったように呼ばれています。ただ生理食塩水バッグにいくつかの欠点があって、シリコンジェルバッグが多用されています。殊に最近では安全性を考慮し、例えシリコンの袋が破れたとしても、中にあるシリコンジェルが流れ出さない、コヒーシブタイプと呼ばれるシリコンジェルを充填したバッグが多く用いられています。

ご相談に際してWith respect to consultation

まず初めに、どのような大きさの乳房を希望しているのか担当医に伝えることが大切です。担当医は、あなたの乳房の大きさや乳房の周囲の皮下脂肪の厚さなど、あなたの希望がどうしたら叶うか診察します。そして実際に可能な増大量や方法などを説明します。相談して決めなくてはならないことには、以下に述べるいくつかの事項があります。気を付けて医師と相談しながらひとつひとつ決めましょう。

シリコンバッグプロテーゼ法Silicon bag prosthesis method

1.プロテーゼの選択Nose of a woman and nose of man

現在使用できるシリコン製のプロテーゼには、世界各国から各種のものが生産され、市場に供給されています。このうちFDAの承認のあるものは、アメリカのメンター社とアラガン社が作ったシリコンプロテーゼです。

シリコンプロテーゼの歴史は古く、1960年頃にアメリカで開発され、長く臨床に用いられてきたのですが、シリコンジェルに問題があるのではないかといった意見もあって、1992年に一時FDAによる豊胸術への利用がストップした時期があります。その後2006年に1992年頃に疑われた問題は否定されFDAの認可が下りました。

現在FDAの承認のあるプロテーゼは、シリコンの膜で出来たバッグの中に、コヒーシブタイプといって、たとえ袋が破れても外に流出することのないジェル状のシリコンが詰まっている構造をしています。これは過去における一般的なジェル状のシリコンが封入されたバッグに比べ安全性が高いと考えられており、またシリコンバッグの中に生理食塩水を封入したプロテーゼのように、一度穴が開けばボリュームすべてを失ってしまうこともありません。市場には上記の会社以外に多くの会社が乳房用のプロテーゼを製造しています。そこで、この中から実際に選ばれる際にはよく担当の先生と相談され、使われるプロテーゼの製造会社等も確認されておく方が後のためによいと思います。またプロテーゼの表面が"ざらざら"のものと"つるつる"のものがあり、ざらざらのものでは術後のマッサージ等の必要がないとされています。この辺りもよくお聞きになって下さい。

2.サイズの決定Will I need Hospitalization?

各個人のバストの底面の大きさに対し、おおよそ乳房全体の盛り上がりが、"あまり大きくない"、"中等度に大きい"、"かなり大きい"、といった3種類か4種類程度のプロテーゼが各々のバストの底面の大きさに合わせて作られています。基本的にはある程度決められたサイズの中で、ご自身が気に入るサイズのプロテーゼを選ぶことになります。あなたの希望や術者の考え方などによっては、あなたのバストのベースの大きさをより大きくする方向で、乳房増大手術を行うこともありますので、細かい点につきましては担当医とよく相談する必要があります。

3.ルートの決定Scar be preserved?

プロテーゼを挿入するためのルートとして、"脇の下"、"乳輪の周囲"、"乳房下線"の3つが代表的です。ただし日本人では乳輪の周辺から挿入される例はごく少ないと考えられています。おそらく乳輪の大きさが小さいことや、乳輪の色素が濃いことなどが理由のひとつになっていると思います。それに何と言っても乳房の正面に傷を残したくない気持ちもあるでしょう。腋下と乳房下線を比較すれば、腋下の方が傷が目立たないと考えるのは自然ではないでしょうか。

ただしこの手術では、プロテーゼを埋め込むための空洞を作らなくてはなりません。この空洞は切開した部位から少しずつ穴を広げ、プロテーゼが完全に収まり込むだけの大きさにします。そしてもっとも大切なのが、この空洞内から出血がない状態までしっかり止血をしておくことです。このような手術操作がやり易いのは乳房下線で、乳房の位置から少し遠い腋下からでは充分な操作をすることが難しくなる場合があるチャレンジングな手法とされています。この辺りも細かく相談される内容になるでしょう。

4.埋没される層の決定Side effects or complications

プロテーゼを設置する位置としては、乳腺直下とその下にある大胸筋の下の2つが代表的な位置になっています。皮下脂肪がある程度ある方では乳房直下を選ばれることが普通でしょう。あまり皮下脂肪のない方では、プロテーゼの形が浮き出るような状況になることもあるので、この時には大胸筋下が選択されることになります。この他に大胸筋膜下といった選択や、大胸筋の処置の仕方などに多少の術式上の違いがありますから、この点も担当される先生とよく相談しておく必要があります。大胸筋の下にプロテーゼを挿入した場合、大胸筋の動きが目立つことがあります。このこともよく医師に聞いて下さい。

5.麻酔の選択The expectations for the results

局所麻酔剤のみでプロテーゼ法の乳房増大術を行うことも不可能とは申しませんが、使用できる局所麻酔の量にも制限がありますから、あまり具体的な方法とは言えないと思います。もっとも一般的なのは、全身麻酔でしょう。局所麻酔にあるいは全身麻酔に加え、脊髄硬膜外麻酔を併用するといった方法もあると思います。

さらにこれに色々な痛みをとるお薬や、鎮静剤を加えた処置が施されるかもしれません。硬膜外麻酔を用いる場合には、深くあるいは広範囲にまで麻酔が浸潤した場合、呼吸抑制が起こることもあるので、この点に注意が必要です。

いずれにしても手術される先生とは別に、あなたの全身を管理して下さる麻酔の先生がいらっしゃる状態で手術をお受けになることが薦められています。

期待してよい結果The expectations for the results

希望した大きさのプロテーゼが挿入されている乳房増大術においては、1、2ヶ月の間にご自分が希望した大きさの乳房を得ることができると思います。そしてそのことがあなたに自信を与えるでしょう。

プロテーゼ法における合併症についてFor complications in Prosthesis method

すべての医療と同様、プロテーゼを用いた乳房増大術にも医療としての不確実性は伴っています。

あなたがこの手術に対しあまりに非現実的な期待を持っていると失望するかも知れません。それは、この手術は比較的大きな異物であるプロテーゼを挿入する手術であるため、いくつかの潜在的なリスクを持っているからです。このリスクのうち、最も有名なものが挿入されたプロテーゼの周囲にできる膜様物の拘縮です。一般的にカプセル拘縮と呼ばれています。この状態があまりに悪化すると再手術が必要です。

一方、リップリングと言って、皮下脂肪が極端に薄い時に波状の変形が透けて見えることを指しています。これらの点については担当医と相談して下さい。

長年にわたるこの手術に関する研究によって、この方法の持つリスクもよく分析されています。そして幸運にもシリコンプロテーゼが授乳を制限したり、長期に見ても乳癌の原因になったりすることはないとされています。

注入法についてFor Injection method

現在実際に紹介されている注入法には色々な名前の付いた異物を注入する方法と、ご自身の脂肪を注入する方法があります。

異物注入法For complications in Prosthesis method

「注入法」すなわち注射器で乳房増大用ジェルといった名前の物質を注入することです。もしも安全で確実な注入法による乳房増大術がすでにあるのであれば、本項で述べてきたプロテーゼを用いた乳房増大術など計画されることはなかったはずです。

乳房増大術の歴史を振り返れば、初めに異物注入に始まっています。古くにはパラフィンが、また一時オルガノーゲンと称される物質が、そしてシリコンのジェルの注入などが試みられてきました。殊にシリコンジェルの注入による乳房増大術は第二次世界大戦後の日本において、相当な症例数が施行され、一時期ブームになったことがあります。ただその後、注入されたシリコンジェルやその他の異物は岩のような塊になり、あるいは皮膚に滲みだし、ほぼ乳房全体を切り取る以外に治療方法がないような症例も生み出す結果となってしまいました。

このような経験がシリコンジェルをシリコン製の袋で覆い、プロテーゼとして用いるプロテーゼ法による乳房増大術が定着していった経緯があります。シリコンそれ自体は何も乳房用のプロテーゼに限らず、医療の世界では幅広く用いられている素材で、人体に対して大変優しい素材ではありますが、それは固形のシリコンにおいて見られる反応で、ジェル状のシリコンに対しては同様ではなかったということです。

最近においても人体が吸収することができない異物を用いた乳房増大術や、逆に人体が吸収することができる異物を注入することによる乳房増大術などが紹介されています。これらの中の一部は他国において高頻度に使用され、高度な障害を残したとの報告もありますが、不明な点も多々あります。よく分かっていないことなので、事の是非について論評することはできませんが、考えなくてはいけないことは、身体が処置できない異物が体の中に永久に残っていることについて、身体がどのように反応するのか不明です。

またその物質が少しずつでも吸収されるものであれば、その異物注入を一定期間ごとに繰り返さない限り、増大効果を持続できないことになります。

脂肪注入についてFor fat injection

同一の個人から採取した脂肪を、脂肪が不足している部位に注入法で移植する方法は、最近研究が進み、色々なところで臨床応用され始めています。多くの場合、少量の脂肪を小さい陥凹などに用いることが主要目的になっていますが、脂肪吸引という術式が発達するにしたがい、廃品利用的に吸引された脂肪を乳房や臀部など、比較的身体でも巨大な部位に移植注入する方式が広まったと考えられています。

ただしこの方式による乳房増大術に関しては、注入された脂肪が壊死を起こしたり、石灰化を起こしたりする危険性が高いことなどから、否定的な意見が多かったのですが、最近には手法も発達し、ひとつの方法として考えてもよいという意見も見られるようになってきています。

しかし乳房は身体にとってかなり大きな組織ですから、この方法単独で乳房増大術を図ることには場合によって無理があるかもしれません。さらには如何に診断技術が向上しているとはいえ、プロテーゼのように取り出すことはできないので、乳癌の健診で疑念を抱かれる場合もあるのではといった意見も聞きます。

一方学術の面から考えれば、今後の再生医療の発展次第では、有力な乳房増大術に進化していく可能性を否定するものではないと思っています。脂肪注入法で乳房増大術をお受けになる場合には、よく担当の医師と相談される必要があるでしょう。