"私も歳かしら? このごろ顔が弛んでいる""顎のラインが昔のようではない"と思われる40代以上の方がこの手術の主な対象です。最近では平均余命が延びたこともあり、実年齢と外観との間に具体的なギャップがあり、ご本人の元気度と比較して外観がくたびれて見えてしまっているのではと思っていらっしゃる方もこの手術の対象になります。
歴史的にも最も古くから検討されてきた顔面の若返りを目的とした手術で、美容外科を代表する手術のひとつです。一方、最近では糸による引き上げ手術なども紹介されていますが、これらの方法は研究開発中の手法で、効果の程やその結果の持続性など、まだ課題が残された手法です。
多くの方は40歳頃になると、自分の顔が若い時のそれではないと感じ始めるのではないでしょうか。そのように感じられる変化そのものが顔に表れる加齢変化です。顔全体の印象は、むしろ顎の尖った三角形であったものが、野球のホームベース型に近付き、ほうれい線(豊令線、法令線)などに代表される顔面の構造皺が目立ち、瞼の周辺では細かい皺が気になり始めます。
これらの変化は年齢が進むにしたがって次第に顕著になり、50代後半頃には若い時にあったはち切れるような感じが失われ、中身の抜けたしわくちゃ感が出てきてしまうことも稀ではありません。これらは皮膚や軟部組織、歯を含めた骨格に対する老化が微妙に組み合わさった結果です。元々持っている顔の形や肌の性質などに影響されると考えられています。
フェイスリフト手術はあなたの顔を変える手術ではありません。加齢によって生じた変化を修正し、10歳ほど若かった時のあなたのお顔を取り戻す手術です。
フェイスリフト手術の対象域は通常「額・中顔面・頚部」に区分して考えられていて、"フルフェイスリフト"という表現をとった場合、この3箇所すべてを同時に手術することを意味します。ただ最も多く適用されるのは中顔面から頚部にかけてのフェイスリフトになるので、ここではこの部位について述べていくことにします。
歴史的には色々な変遷があったものの、現在では耳の前後からそれぞれ側頭部、後頭部に伸びる切開線を加えた後、個々に生じた加齢変化を修正する上で必要な範囲まで皮下剥離を加え、加齢に伴って下垂したり、位置を移動したりした軟部組織を何らかの方法により可能な限り元の位置に戻し、余剰に付着した脂肪などを切除した後、弛みかつ下垂している顔面の皮膚を上後方へ引き上げ、最初に作られた耳介周辺の皮切にそって切除し、縫合するというものです。手術は両側を同時に行うことが一般的です。両側であることもあって、手術時間は5時間から6時間を要します。
大切なことがいくつかあります。1つはあなたが最も気にしていらっしゃる"おでこのしわ""顎の弛み""目の周りの・・・"といった具体的な加齢変化を担当医によく話すことだと思います。そのために必要であれば、鏡の中で自分がどのようになりたいのかお試しになってみるのもひとつの方法だと思います。2つ目は医師はあなたのご希望に対し、医師自身の経験を踏まえ、あなたにとって必要なフェイスリフト手術を説明すると思います。そしてその医師が提示する方法以外の他の方法との比較についてもお話下さるでしょう。3つ目はあなたに持病などがあれば医師にお話し下さい。そしてどのような治療を受けているかについても知らせて下さい。さらに腰痛の有無などもお話し頂いておいた方が術後のケアが楽になります。このように加齢変化や全身的な細々とした相談をする中で、医師とのよいコミュニケーションを図ることが大切だと思います。
フェイスリフト手術には、100年の歴史があります。この間医療そのものが発展することで可能になった手法もありますが、経験が積み重なる中でより良い結果を残すために必要な術式の改良も行われてきました。
ひとつひとつの術式には利点もあり欠点もあります。またある手法により治し易い加齢変化もあれば、治し難い加齢変化もあります。多くの例で単独の加齢変化が認められるというよりも、いくつかの複合的な要因が加わってその人独特の加齢変化が顔に表れているので、実際の手術では色々な手法の中から必要なものを組み合わせた「あなたのフェイスリフト手術」が用いられる必要があります。
フェイスリフト後の手術痕は、近寄って細かく見れば分かるかもしれませんが、なかなか分からない程度の傷痕です。
しかし、如何なる場所からリフトを行うか(切開線)ということは大切です。例えば側頭部では、従来から数多く行われている耳介前部から、ほぼ直線的に頭皮内に切開線を延長するもの(頭皮内切開)と、切開線をこめかみの毛生え際に置くものがあります。
この両者にはそれぞれ利点と欠点があります。まず頭皮内に切開を置き顔面全体を上方に引き上げた場合、切開の前方にある頭皮も上後方に移動するため、もみ上げの上昇が起こることになります。普通耳介の前方にはもみ上げがあり、これが横顔の大きさを決定している要因のひとつになっているのですが、これがある程度上昇しますと、顔が多少大きく見える可能性があります。しかし、術後の傷痕が見えない方を優先するのであれば、この切開位置は目立たないので、若い方などリフトする量が少ない時には有用な選択肢になります。
一方毛生え際からのフェイスリフトでは傷は残るものの、髪の移動は最小限になるので、このことが優先されれば毛生え際の切開の方が優位になります。
したがって実際に用いられる術式の細かい点については、実際に担当される先生と細かく打ち合わされる中で決めていくことになります。
フェイスリフト手術はそれなりの規模の手術ですから、ダウンタイムもできれば2週間ほどみておきたい手術です。抜糸には1週間前後を要します。洗髪は術後3日くらいから行うことができます。洗髪が出来る頃から日常の生活に支障を来たすことはまずありません。ただし手術後の2週間程は腫れや場合によっては内出血の跡など、少なくとも術前にはなかった状態が顔に生じるので、お顔について何かと心配されることだと思います。
でも安心して下さい。正しく施行されているフェイスリフト手術であれば、あなたの気にしていらっしゃった加齢変化が可能な限り消退し、少なくても少しでも今より若い張りのあるお顔に戻れます。
フェイスリフト手術は医療のひとつなので、医療が持つ不確実性は存在します。フェイスリフト手術に特徴的な合併症として考えられているのは、手術瘢痕、顔面神経麻痺、血腫、非対称性、皮膚の壊死、禿髪、感染症です。
今日のように顔面の解剖学的特徴や加齢変化の理解、さらには術式の習熟度などを考え合わせてみると、如何に顔面神経に対する損傷を避けてこの手術を行うかといった方面では、十分な研究と学習が行われてきたと言えます。
しかし側頭部の顔面神経の枝に関しては、現在でも細心の注意を払って手術が行われる必要があることに変わりはありません。術後の瘢痕に関しては縫合部に緊張を残さないように、下垂した軟部組織や皮膚を固定する手法が開発されているので、上手に行われたフェイスリフトにおいて、ケロイド体質でもない限り肥厚性瘢痕を見ることは極めて稀となっています。その他ここに挙げた合併症は、論理的には避けることができる合併症となっていますが、時に生ずることがある合併症として記憶し、それが発生しないように気を付ける必要があります。
このような合併症の存在も考え合わせると、可能な限りフェイスリフト手術は単独で行い、その時安全に付加し得る手術を同時に付け加えるといった判断をすることがよいと考えられます。殊に強度のピーリングを行うことは、一般的には避けておいた方がよいと思います。
フェイスリフト手術で、50代の方が20代の顔に戻るといった過剰なことは不可能です。ただしフェイスリフト手術は医学的に若返ることが認められた外科手術なので、その効果は期待できます。殊に顔面の下垂感や弛みに対する改善効果は他のすべての方法を凌いでいます。そしてその効果は、手術の翌日から加齢は重なるにしろ持続されると考えられています。ただしどのように上手にリフトしたとしても肌質が変わるわけではないので、肌質に関する改善はスキンケアで解決されていくべきテーマでしょう。